2017年12月16日

鞍馬山で天狗と間違えて坊さんを捕まえる 天狗さし

ご訪問ありがとうございます。
落語の旅人、庭乃雀でございます。

『鞍馬より牛若丸が出でまして、名も九郎判官』
ご存知“青菜”でお馴染みの一節ですが、
鞍馬山は天狗刺し、天狗裁きの舞台でもあります。

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鞍馬山は京都市左京区にある霊山として知られ、古くから密教の山岳修験の場として
栄えました。奥深い山には天狗が住み、特に鞍馬の天狗は僧正坊と呼ばれる大天狗で、
日本各地の天狗様の総元締らしいです。牛若丸の剣術の師匠という伝説もあります。

京阪出町柳駅から叡山電車に乗り換えて向かう事約30分。終点鞍馬駅に到着です。
叡山電車は最初街中を走る路面電車の様相ですが、二軒茶屋を過ぎるころから
自然豊かな山の中へと入って行きます。
特に市原駅から二ノ瀬駅間にはもみじが群生し、紅葉の季節には色鮮やかな
『もみじのトンネル』となって観る眼を楽しませてくれます。

叡山電車は比叡山口にむかう叡山本線と鞍馬線の二つがありますが、
鞍馬線の電車は窓が大きく、『きらら』という名前の展望列車になっています。
車両中央部分の8席のみが窓側に座席が向いていて、これは争奪戦必至!

ちなみにひとつ手前の貴船口駅で降りて、鞍馬寺を目指すコースもありますが、
これは脚に相当自信のある方でないと厳しいんじゃないかなと思います。
奥の院から貴船まではめちゃくちゃ急勾配が続きます。下るのも大変でした。

さて、鞍馬寺の仁王門から一歩足を踏み入れると、そこはもう別世界。
静寂と霊気に満ちた神域にゾクゾクします。俗世界との結界を越えたという感じです。

由岐神社から清少納言が「近うて遠きもの、くらまのつづれおりといふ道」と詠った
『九十九折参道(つづらおりさんどう)』を経て本殿金堂までは長い石段をひたすら登ります。
道すがら源の義経ゆかりの史跡が数多くあり、飽きる事はありません。
義経と天狗さまの修行の日々を想像たくましゅうして歩き続けること30分ほど。

本殿金堂には千手観音菩薩、毘沙門天王、護法魔王尊の三尊がお祀りされています。

愛を月輪の精霊・千手観音菩薩、光を太陽の精霊・毘沙門天尊、
力を大地の精霊・護法魔王尊とし、この三尊を一体として『尊天』と称するとあります。
そもそも、650万年もの昔々、地球人類救済の為に宇宙神霊(魔王尊)が
金星より降り立ったのがこの鞍馬山だという伝説があるのです。
加えて、本殿は龍穴の上に建てられているので
宇宙と大地を結ぶ強力なエネルギーが吹き出し、常にみなぎっているという
もう、これでもかというくらいのパワースポットなわけです。
感性の鋭い人ならば、精霊やら天狗やらわんさか眼にすることでしょう。

護法魔王尊は秘仏で、60年に一度、丙虎の年に公開されるんだそうです。
(60年に一度浮上する四天王寺の池の『青亀の怖いとろろ』とちゃいますよ〜≧∀≦)
次はいつかしら。その姿は背中に大きな羽があり、鼻高の仙人のようだとか。
どうやら魔王尊の正体は鞍馬の大天狗、僧上坊ということになるのでしょうか。

鞍馬山はまた地形が特殊で、なんとジュラ紀の地質がそこかしこに露出していて
2億年前の空気に触れる事ができるのです。特に本殿金堂から奥の院に至る道は
『木の根道』と呼ばれていて、杉の木の根っこが縦横無尽に地表をはい回っている姿は
圧巻です。地面のすぐ下にジュラ紀の固い岩盤が迫っており、根っこが地中に
入り込むのを拒んでこんな地形になったのだそう。ほんに自然が作る造形の面白いこと。

鞍馬_S1.jpg

耳のそば、ぶ〜んという蜂の羽音さえ お経に聞こえた木の根道♪

ジュラ紀と金星と魔王、天狗と義経が駆け抜けた道。
不思議なパワーに満ちた場所。癒されるのか、はたまた魔力をさずかるのか
とにかくワンダーランドな鞍馬山。いちおしのパワースポットなのでございます。

ところで、お噺の中では、奥の院魔王殿の横の大杉に天狗がやってくるとありましたが、
由岐神社の大杉の方がイメージにぴったりだったなあと思う雀でありました。

チュンチュン

鞍馬_S2.jpg

さてさて
大阪天満におもろい男がおりまして、鳥刺しならぬ、天狗を刺して捕まえて
天狗のすき焼き『てんすき』を出す店を始めようと考えてます。

昔、鳥を捕まえることを鳥刺しと言いました。
長い竿の先にとりもちをつけて、それで小鳥を刺す(くっつける)
ことで捕らえます。

外国でも日本でもお仕事として成立しており、江戸時代の日本では
鷹匠に仕えて、餌となる小鳥を捕まえていたようです。

この男の中では、天狗は鳥のカテゴリーに入るのですかね。
確かに烏天狗は大きな嘴を持ち、猛禽類の羽、羽毛に覆われた山伏装束の姿です。
神通力にも秀で、牛若丸に剣を教えたとも言われている・・・
そんな天狗をすき焼きにして食べようなんて! しかもとりもちで刺せますかい?

とにかくこの男、天狗は鞍馬山にぎょうさん居ると聞いて京の町へとやって参ります。
太い青竹1本と、とりもちをどっさり持って、鞍馬の山を登っていきますと、
天狗が夜中に一度は羽交いを休めにくるという奥の院の大杉の下へとたどり着いたのは
もうとっぷり日も暮れた頃。日がな一日山道を登って来たものだから疲労もピークに。
大杉にもたれて天狗を待つうち、トロトロ寝入ってしまいました。

その日奥の院では何かの行が施行されており、行を終えた坊さんがひとり、
扉をギ〜っと開けて階(きざはし)を降りて来ました。
夜陰に響くギギギ〜という音で男が目を覚ました時、一陣の風が吹いて来て、
いたずらに件の坊さんの衣の裾を翻しました。

鮮やかな緋の衣がひらひらと翻る様子が、この男には天狗の羽に見えました。

坊さんがトントントンと降りて来たところに飛び出して、足下をさっと払い、
倒れ込んだ坊さんを縄でぐるぐる巻きに。
気の毒なのはこの坊さん、青竹に括り付けられ、捕らえた大天狗として
男に担がれ山を下りて参りました。

驚く京の人たちを尻目にどんどん歩いて行くと、前から青竹を十本ほども
担いだ男が歩いてきます。

油断のならん世の中やなあ、もう真似する奴が出て来たがな。
青竹が十本、十匹も捕まえる気いかいな。

「お〜い、竹担いでこっちくるやつ〜お前も鞍馬の天狗刺しか?」
「いや、わしゃ五条の念仏ざし(尺)や」

チュンチュン

『念仏ざし』が何かという事をわかってないとサゲの意味がさっぱりわかりませんね。

【本日のよもやま】
このお噺も米朝さんが復活させた古いお噺です。
けれども「五条の念仏ざしや」というサゲがよくわからず、サゲの面白さが分からない
まま高座にあげるわけにいかないと、由来を探し求めていたある日のこと、
京都の万市という古い道具屋さんから、蔵の引出しからみつかったという“念仏ざし”と
その由来を書いた名刺が米朝さんの元に届けられたのです。それによると・・・

昔、五条通に看板を出した名代の物差し屋がありました。
原料の竹が育った竹やぶは西本願寺大谷廟界隈にあり、朝夕念仏を聞きながら育った
ありがたい竹で作った物差しだから『念仏ざし』と名付けられ、たいそう評判になった
ということです。

天狗さしの男が商売敵と間違えた男は、念仏ざしの職人さんだったのですね。

他に伊吹山から掘り出した念仏塔婆には寸法が刻んであって、それを元に作った
さしなのでという説もあるようです。

五条の念仏ざし屋は正確には高倉通の万寿寺あたりにあったそう。
高倉通の万寿寺は『口入れや』の女子衆さんの実家としても登場しましたね。
古い町家が並ぶ風情ある通りですが、高倉通と万寿寺通りが交差するあたりに
念仏ざし屋さんなどの痕跡はもちろん見当たりませんが。

チュンチュン

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posted by 庭乃雀 at 02:56| Comment(0) | 京都編 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする