落語の旅人、庭乃雀でございます。
おかげさまで質屋さんにお世話になったことはまだないのですが、
質屋と聞くと、
丸に質の字が染め抜かれたのれんの前で、
ありったけの着物を包んだ風呂敷抱えて行ったり来たり。
意を決して飛び込んで・・・みたいなドラマチックな場面が浮かびます。
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なんだか入るのに勇気がいるところというイメージがありますが、
江戸時代とかだともっと身近な存在だったようですね。
質草も古着、反物、大工道具、鍋釜、布団などなど、生活用品を
気軽に預けて、その日のご飯代にする。
日々の暮らしに困っている人にとっては、随分と頼りになる存在だったとか。
落語の世界では定番中の定番。
仕事道具を質に入れて、貧乏神に説教されたりして。
現在では、質草も高価なブランド品やら、宝石など、随分様変わりして、
形態もお金を借りるというより、買い取りの方が主体になってるみたいです。
うちの近所の商店街にも“高価買い取り”と書かれたのぼりや看板を
掲げたお店が増えました。
タイヤやお酒も買ってくれるんですね。びっくり〜
お気に入りの着物や帯を泣く泣く質に預けて、期限までに出せればいいけど
間に合わず流してしまったりしたら、筋違いに質屋に恨みをかける。
因果な商売やなあとこのお噺の旦那さんは言います。
質屋さんの蔵の中はそういう人の思いの詰まったものが集まっているので
おかしいことのひとつやふたつ起こっても不思議はない。
今回のお題はそういうお噺です。
チュンチュン
さてさて
ある大きな質屋の三番蔵に夜な夜な化け物が出るという噂。
当の旦那さん、そんな噂が広がれば商売に差し障ると、
番頭さんに真偽のほどを確かめるよう言いつけます。
ところがこの番頭さん、大の怖がり。
背中一面に刺青を入れ、腕に覚えのある手伝いの熊はんを
助っ人にと願います。
そんなわけで呼ばれた熊はんも、実は怖がり。
人間相手なら滅法強いが化物相手ではと威勢もしぼんでしまいますが、
結局怖がり2人で、寝ずの番を務めることに。
結構なご馳走とお酒を用意してもらって、酔いも周った夜更け。
化物の時間丑三つ時になったころ、蔵の戸前にボ〜っと鬼火が現れた。
出た〜っと腰を抜かして大騒ぎの2人に旦那さんが一括!
さすが大家の旦那さんは肝が据わっておりまする。
旦那さんが蔵を覗くと、なんと質草たちが大騒ぎ。
小柳繻子の帯と龍門の羽織が相撲をとっています。
様々な人の思いが集まってかかるワザをするものかと尚も見ていますと、
隅に立てかけてあった箱の蓋が開いて、中から掛け軸が転がり出てきました。
するすると壁にはいあがり、勝手に壁にかかります。
角の時平(藤原時平)さんから預かってる、天神さんの絵像です。
あっけにとられている旦那さんの目の前に天神さんが絵像から抜け出してきて、
あの有名な『東風吹かば』の歌を詠み、おっしゃることには…
「そちゃ当家の主人なるか?質置き主にとく利上げせよと伝えかし。
どうやらまた、流されそうな・・・」
チュンチュン
【本日のよもやま】
『質屋蔵』大好きなお噺です。
まず、旦那さんの語り『なにゆえ質屋は因果な商売か』の段
定吉と熊はんの『旦那さんえらい怒ったはるぞ』の段
熊はんと旦那さんの『全部おまはんの仕業かい』の段
番頭はんと熊はん『怖がり2人で寝ずの番』の段
『出たぁ〜ぁ!2人とも腰が抜けておめでとう〜サゲへ』の段
と、こんな感じで場面展開しますが、それぞれ盛りだくさんで、
笑いが絶えません。
サゲも大好き。
太宰府に流された道真さんと、質流れをかけてあるのです。
流されてばかりでは、道真さん気の毒ですね。
質屋さんのルールは品物を担保にお金を借りて、期限内
(最短3ヶ月)に返さなければ品物は質屋さんのものになります。
これを質流れと言います。
利息だけでも払っておくと、流れずに契約更新できます。
これを利上げといいます。
道真さんの切実な願いがサゲとなります。
とにかく! 枝雀さんの丁稚の定吉が可愛すぎる〜(≧∀≦)
やっぱりやっぱり枝雀さんのが絶品です。
NHK BSプレミアム『松本人志、落語を語る』という番組で、
まっちゃんがベストに選んでいたのも、この枝雀さんの『質屋蔵』。
至極絶賛されてました。
何時の高座かは定かではありませんが、
枝雀寄席での『くっしゃみ講釈』もみごとやったなあ。
最初から最後まで一切よどむことなく、流れるように一気にサゲまで。
私はDVDでしか見たことがないですが、ほんまもんの高座を
見とけば良かったなあ。
ちなみに7月8日は『質屋の日』なんですって。
全国質屋組合連合会、略して全質連のキャラクターもあります。
蔵と犬が合体したみたいな、しちまるくん、すこぶるかわいいです。
ますます気軽に利用して欲しいという組合のねらいなのかな?
チュンチュン
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