2017年08月22日

料金紛失トリック?7円の水壷をまんまと3円で手に入れる  壷算

ご訪問ありがとうございます。
落語の旅人、庭乃雀でございます。

その昔、陶磁器問屋がたくさん集まっていた、大阪は西区の瀬戸もん町が
本日のお噺の舞台です。

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江戸時代の大阪は、諸国物産の集散地としてずいぶん栄えておりました。
それ故同業種で形成された町がいくつもありましたが、瀬戸もん町もそのひとつです。

陶磁器商の成り立ちは、現在の大阪市北区にあった備前鍋島家の上屋敷に、
備前ものの伊万里焼きが船によって運ばれ、それを商人が扱った事によります。
その後、尾張産の瀬戸物を扱い始めた事によってますます盛んになり、
西横堀川西側に問屋街が形成され、瀬戸もん町と呼ばれるようになりました。
現在の阿波座、立売堀一丁目界隈の事です。

「ほうら、ゆうてる間に瀬戸もん町や。軒並み瀬戸もん屋や。瀬戸もん屋、瀬戸もん屋、
瀬戸もん屋、瀬戸もん屋、空き地、瀬戸もん屋・・・・」

と、お噺にも出てくるように、当時200軒以上のお店が軒を並べ、全国の集散地として
相場を決める場でもありました。明治以降は、産地直結の流通が進んだ事や
戦後の復興が遅れた事などにより徐々に衰退し、現在陶器商は4軒のみとなりました。

昔、西横堀川、今は阪神高速1号環状線に沿って歩くと、エスリード本町というビルの
ショーウインドウに瀬戸物で造られた人形が飾ってありました。
毎年7月21〜23日に行われる陶器神社の夏祭り『大阪せともの祭り』の瀬戸物人形です。
雀はこのお人形の事初めて知りましたが、今はなき枚方の菊人形を思い出します。
同じようにかつて境内ではその年の世相を反映したストーリー仕立てのお人形が
展示されていたそうです。

せともの祭りは、江戸時代から300年続く伝統行事。
界隈の陶器店が蔵ざらえの市を開いたのがきっかけで、
元々は市の売り物だった陶器の端物や見本品で人形を作ったのが、
この『造りもん』と呼ばれるお人形の始まりだそうです。
瀬戸もの一式を使ったお人形は豪華で迫力がありますね。

壷算_2.jpg

陶器神社は阪神高速を挟んで東側、坐摩神社の境内にあります。
陶器産業にはつきものの火と土と水の神様を祀る、陶器商人の守護神さまです。
本殿天井には、全国の名工から寄贈されたお皿がずらり!
色鍋島、古九谷、九谷、有田など、中には人間国宝さんのものも!
他にも門柱、狛犬、灯籠、なんと由緒書きまでが陶器でできています。
瀬戸焼、信楽焼、有田焼、まるで焼き物の博物館のようです。

坐摩神社は『いかすり』と呼ぶのが正式ですが、普通は『ざまさん』で通っています。
摂津の国一宮、当地の産土神でございます。
神功皇后が坐摩神の神託により大江の島の田蓑島(現在の天満橋付近)の松枝に
白鷺の群がるところを選び、坐摩神を奉祀されたのが始まりとされています。
それゆえ、ざまさんのご神紋は鷺丸。それにちなんで境内で鷺草を栽培されてます。

鷺草はまるで鷺が羽を広げたようにみえる、小さな白い花を咲かせます。
毎年8月〜9月上旬頃までが見頃ですが、今年は花の咲きがあまりよくなく、
いつもより鉢の数が少ないそうです。
それでも、拝殿前に設えられた風鈴と可憐な白い花にしばし時を忘れ、
涼を感じる事ができました。

チュンチュン

壷算_3.jpg

さてさて
買い物上手な徳さん、頼んない男につきあって二荷入の水壷を買いに
瀬戸もん町へとやってきました。

まずは一荷入りの壷、3円50銭を3円にまけさせる。こんなのはお茶の子さいさい。
この壷をかついで、一旦お店を出てから引き返し、ほんとは二荷入りの壷が
ほしかったのにまちがえたと言う。いよいよここからが詐欺の真骨頂。

「二荷入りは一荷入りの2倍となってます」
「ほんなら3円の倍で6円やな」
「あんさん買いもん上手やわ。1円からまけなあかん」
「先に3円渡してあったな」
「へえ」
「この一荷一入りの壷3円で下取りしてくれたら助かんねんけどな」
「へえ」
「3円と3円で都合6円、この二荷入りの壷もろて帰るわ」
「へえ・・・・えっ〜」

大きなそろばん出して来てはじいてみても、勘定あって銭足らず
手元には3円のお金しかない。
なんかおかしいのはわかるけど、なんでやねん
パニクって瀬戸もん屋が「もうよろしいわ〜この壷持って帰っとくれやす」

「こっちの思うツボや」

チュンチュン

【本日のよもやま】
『勘定合うて銭足らず』
壷算というのは、もともと大工さんの使う坪算用のことで、
土地の坪勘定があわないことから、勘違いや思い違いのことを言ったそうです。

『一荷入りの壷』
一荷というのは天秤棒の一荷いのこと。ひとつの桶に入る水は約30リットル。
前後に二つ桶をつけて荷なうので、一荷入りというのは約60リットルの水を
溜めておけるサイズの壷という事になります。二荷入りはその倍。

大阪はもともと淀川の土砂の堆積でできた土地ですから、水の都といいながら
井戸を掘ってもきれいな水は出てきません。
家庭で使う飲み水等は水屋から買わなければなりませんでした。
なので、どこの家の台所にも水壷が置いてありました。

今では蛇口をひねればいつでも好きなだけきれいな水が飲める、
世界でも稀な国となりました。しあわせなことに。

人間はなかなか自分が作った思い込みという垣根を越える事ができません。
そんな人間心理を巧みに利用した計算トリックを使って、徳さんはまんまと
7円の壷を3円で手に入れてしまいます。
さっき買った一荷入りの壷を“下取り”してというところが“ツボ”なのでございます。
整理してシンプルに考えると、最初の一荷入りの壷は返品なのだから一旦その料金の
3円を返して改めて6円もらえばなんの問題もなかったわけで・・・

昔この手口を使った、外人さんによる詐欺が横行したそうです。
新聞には『時そば外人』と報道されましたが、どちらかというと『壷算外人』ですよね。
彼らの国ではこんなの日常茶飯事のことだというのですが。

あっ!
坐摩さんの神紋は鷺、料金トリックいわば詐欺で壷を買う今回のお噺。
鷺が群れていた地だっただけに詐欺がきれいに成立しましたとさ。

チュンチュン

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posted by 庭乃雀 at 00:04| Comment(0) | 大阪編 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする