落語の旅人、庭乃雀でございます。
新町界隈ぶらり一周の続きの続きです。
砂場蕎麦の感慨に耽りながら、長堀通りを東へ。
長堀川を埋め立てて、今は中洲のようなグリーン地帯とよばれているところ、
中央分離帯は遊歩道になっています。
川だった名残に、橋の跡がたくさんありますね。
オレンジに色づいた木々。秋も深まった通りを楽しんでいると
ほどなく四ツ橋の交差点です。
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四ツ橋はその昔、東西を流れる長堀川と南北を流れる西横堀川が交差して
十字をなしていたところ。
東西南北に四つの橋がかけられていたことが地名の由来です。
東の橋を炭屋橋、西の橋を吉野屋橋、南の橋を下繋橋、北の橋を上繋橋と称しました。
今はその跡に、十分の一のスケールで四つの橋が再現されていて、
ぐるり橋を渡った気分になれます。
この四つの橋が架かる景観は遠国からの旅人には大変めずらしく、
常に当時の大阪名所の筆頭に数えられていたそうです。
十字の川面には舟が行き交い、納涼に観月にと橋は人々の憩いの場所として賑わいました。
また、このあたりは“四ツ橋煙管”という煙管が名産だったそうですよ。
播磨屋源蔵という人が始めた煙管屋は、観光客のおみやげとして人気が高まり、
本家とか正本家とか、播磨屋を看板に揚げる店が軒を連ねて2、30軒にもなったのだとか。
『すずしさに四ツ橋をよつわたりけり』 小西来山
『後の月入りて貌よし星の空』 上島鬼貫
ふたつの句が四ツ橋跡の碑に刻まれています。
まさに納涼、観月を謳った美しい句ですね。
そんな四ツ橋を舞台にしたお噺が本日のお題『辻占茶屋』です。
この橋あればこそのお噺だと思います。
『辻占茶屋』はハメものがふんだんに使われ、下座さん大活躍のお噺です。
色街はいつに変わらず陽気なこと〜でまず一曲、
そのあと三味線の調子合わせがあって『ゆかりの月』『常磐津のえびら源太』
さらに掛け合いの歌と三味線が続きます。
高座と下座の掛け合いでお噺が進んでゆくので、下座さんなくては成り立ちません。
お座敷の雰囲気、辻占という趣向を散りばめ、
しかも、お芝居の『ひらかな盛衰記』をパロっています。
神崎屋の梅乃と鍛冶屋の源やんの元は、神崎揚屋の梅ヶ枝と梶原源太。
源やんが梅乃を待っている時、となりのお座敷から聞こえてくる歌は、
ひらかな盛衰記、神崎揚屋の段と言う仕掛け。
粋でほんまにようできたお噺なのです。
このお噺、江戸にいきますと『辰巳の辻占』となりまして、上方とは趣が違います。
まず、お芝居のパロディではありません。
下座さんとの掛け合いとかも全くなくてあっさりしてます。
江戸好みですかね。
チュンチュン
さてさて
難波新地は神崎屋の遊女梅乃に惚れて、所帯を持ちたいと思っている鍛冶屋の源やん。
愛しい梅乃からお金をねだられ、甚兵衛さんのところに借りにやって来ます。
甚兵衛さんから見れば、騙されていることは一目瞭然。
心中話をもちかけて、梅乃の心底を試してみろと提案します。
さっそくお茶屋にやって来た源やん。
梅乃を待つ間に前の客が残した辻占で梅乃との行く末を占ってみます。
ゲンの悪い辻占に気落ちしていると、隣のお座敷から聞こえてくる三味線は良い文句。
喜んでいるとまた悪い歌詞になり、一喜一憂しているとようやく梅乃が現れる。
案の定梅乃には心中する気などさらさらありません。
が、とりあえず、源やんのいうとおり心中実行の体で、四ツ橋までやって来ます。
一緒に飛び込んだのでは、あの世で添えぬとゆうからとかうまいこと言って
四ツ橋のむこうとこっちで別れて飛び込むことになります。
真っ暗で顔も見えへんし、ちょうどええわ。
南無阿弥陀仏と叫んだ後にそのへんにあった大きな石を投げ込みます。
源やんも死ぬ気はないので、同じように石を投げ込みます。
お互い相手が飛び込んだものと思い、急ぎミナミへ帰ります。
するとお茶屋の前でばったり出くわして、
「おまえ、梅乃やないか!」
「源やん、ご機嫌さん」
「ご機嫌さんてなんやねん」
「娑婆で会うたなりや」
チュンチュン
サゲがわかりにくいと言われたりもしているようですが、雀はようできたサゲだと思います。
元々は吉原を極楽に見立て、俗世界を娑婆と呼んでいたそうです。
遊里の隠語で“裟婆で会うたなり”は“お久しぶり”のこと。
つまり、心中が叶いここはあの世。
しかも極楽。娑婆で会って以来お久しぶりね〜ということですね。
五代目文枝さんのサゲは飛び込んだという体で
「まあ源やん、あんた風邪ひかへんだか」でした。
サゲは演者によっていろいろ変えてらっしゃるみたいですね。
【本日のよもやま】
辻占というのはこのお噺で初めて知りました。
元々は四つ辻に立って、はじめに通った人の言葉で吉凶を占うことですが、
煎餅や饅頭の中におみくじを入れた辻占菓子というのもあります。
源やんが前のお客が残していったもので占っていたやつです。
いわゆるフォーチュンクッキーですね。
遊里のお茶屋さんのサービス品でもあったそうです。
雀、知らないなりに昔から自然と辻占やってました。
通りすがりの人の会話でやけに耳についた言葉は、神さまからのメッセージだと
思って心に留めていましたし、町の広告、看板なんかもしかり。
中でも面白かったのは、ちょうどやるかやらないかで迷っている事があったある日のこと、
目の前を自転車で通り過ぎていった男の人が着ていた法被の背中に
染められていた言葉が 『今しかない!』 でした。(≧∀≦)
あまりにタイムリーで思わず「はいっやります!」
何かヒントが欲しい時、本屋さんをウロウロするのもおすすめです。
ここは言葉の宝庫ですからね。
林家染丸さんの高座では、甚兵衛さんが源やんに
「お茶屋に行く前に瓢箪山のお稲荷さんへ行って占え」
というくだりがありました。
調べてみますと、瓢箪山稲荷神社は日本三大稲荷のひとつとされていて
なんと辻占の総本社でした。
予約が必要ですが、辻占判断というものをやってくださるそうです。
まず、本殿で願い事を祈って、おみくじを引きます。
次に東参道入り口の占場に立って道行く人を観察します。
服装、年齢、持ち物、乗り物などなど特徴を覚えておいて、
宮司さんに伝え占っていただきます。
引いたおみくじが一番だったら1番目に通った人
二番だったら2番めの人、三番だったら3番めの人を観察します。
と、いうぐあい。
瓢箪山稲荷神社へは、近鉄奈良線瓢箪山駅下車徒歩5分です。
興味のある方はぜひ訪れてみてはいかがでしょう。
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