2016年10月24日

講釈場、いらぬ親父の捨てどころ くっしゃみ講釈

ご訪問ありがとうございます。
落語の旅人、庭乃雀でございます。

いつの高座だったのか定かではないのですが、
ある日の枝雀寄席での枝雀さんのくっしゃみ講釈が、
それはそれは素晴らしかったのです。
最初から最後まで、流れるようによどみなく、
所作は美しく、キャラは立ち、爆笑のうちにサゲまで。
何度観ても惚れ惚れとする高座でした。
今日ふとそんなことを思い出していました。
なので、今回のお題は『くっしゃみ講釈』です。
チュンチュン

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くっしゃみ講釈というお噺には、講釈と覗きからくりというものが出てきます。
やっぱり落語は総合芸術ですね。
歌舞伎、浄瑠璃、講釈、からくり、にわか、舟頭歌などなど、
雀は落語を通じて知ったものがたくさんあります。

講釈は今では講談といいます。講談の講は、歴史という意味だそうです。
だから、昔の歴史をわかりやすく面白くお話するのが、講談(講釈)というものです。
赤松法印というお坊さんが、徳川家康の前で『源平盛衰記』などを読んだのが
始まりとされていますから、500年以上の歴史がありますね。

講談というと、パパンパンパン♪というハリセンの音がまず思い浮かびます。
釈台という机をハリセンで叩きながら、リズムをつけて語る。
これを『軍談、修羅場調子』というそうです。
ここぞ聞きどころというところでパン!
時間や場面が変わるときにパン!
寝ているお客さんを起こすときにパン!(≧∀≦)
ひとうちで一瞬にして時空間をワープさせることができます。
落語では見台を拍子木で叩く、それと同じ効果ですかね。

講談ならではの表現は美しく力強い日本語で、リズム感があり、
うまい先生だとぐいぐい引き込まれていきそうです。
いや、ほんまの高座はまだ聞いたことがないんですけどね。
パパンパンパン

覗きからくりとはどんなものでしょう?
大きな箱の少しアーチがかった前面に、
凸レンズがはめ込まれた複数の覗き穴があいています。
箱の中にはストーリーが描かれた錦絵がセットされていて、
レンズから覗くとその絵が飛び出して見えるという仕掛け。
江戸時代に作られた3Dシステムでございます。
絵も羽子板のような押し絵と呼ばれる半立体のもの。
口上師が独特の節回しで物語るのにあわせて、中の絵が変わります。
いわゆる立体紙芝居に江戸時代の人たちは熱狂したもようです。

復元したものが、大阪歴史博物館にあるようなので行ってきました。
地下鉄谷町線谷町四丁目下車、2番出口から出て徒歩3分。
NHK大阪の隣にあります。大阪城のすぐそばです。
ここは、古代から近代までの大阪の歴史が一目瞭然の博物館です。
中でも落語の舞台によく登場する江戸時代のエリア、萌えます!
その住吉さんの紹介エリアにありました。
でも残念ながらレプリカで、イメージがわかる程度のものでした。
実際に覗いて物語を演じることができるほんまものの屋台は新潟に2台あるだけで、
それは屋台も中ネタという絵の部分も100年以上も前のものだそうです。
当然新潟県指定、有形民族文化財になっております。

ほんまものの興行にお目にかかれる機会は、もうなかなかないかもしれません。
ちなみに、YOUTUBEで検索すると『八百屋お七』観ることが出来ます。
立体紙芝居の実際の迫力を感じることは難しいですが、からくり節を聴くことが出来ます。
興味のある方は是非検索してみてください。

チュンチュン

大阪歴史博物館.jpg

さてさて
近頃はやりの講釈小屋で、人気の後藤一山という講釈師に
小間物屋のみっちゃんとのデートを台無しにされたと逆恨みしている男、
友達のまさはんの提案で仕返しを企てます。胡椒の粉を火鉢にくすべて
くしゃみ攻めの果てヤツの高座を台無しにしてやろうというもの。

さっそく、横町の八百屋へ胡椒を買いに出かけることになります。
ところが、この男アホです。脳の記憶を司る分野が壊れてるみたいです。
何所へ何をどれだけ買いに行くのかが憶えられません。
そこで、好きなからくり『八百屋お七』を思い出すきっかけにすることにします。
行く所が八百屋で、お七の色男が駒込吉祥寺、小性の吉佐、そこで胡椒を思い出さんかい。

案の定、八百屋で何買うか忘れてます。
からくり一段すっくり語って、八百屋の店先は大騒ぎ。
苦労して胡椒を思い出したはいいが、胡椒は売り切れでないときた。
八百屋の提案で結局唐辛子の粉を買って帰ります。
唐辛子の粉を懐に、いざ講釈小屋へ。

今日のお題は『難波戦記』。ちょうど修羅場にさしかかった頃、
一番前の席に陣取ったアホが、一生懸命唐辛子の粉をくすべた煙をあおいでます。
後藤一山の鼻先に煙が届いて、企み通りえぐいくしゃみを連発、とまりません。
とうとう高座は中止に。ここぞとばかり野次りまくるふたりに講釈師、

「あいやそこのおふたりさん、他のお客さんはみな気の毒やゆうて帰ったのに
あんたがた、なんぞ私に故障でもあるのですか」

「胡椒がないからトンガラシくすべたんや」

チュンチュン

【本日のよもやま】
後藤一山が語る講釈の演目『難波戦記』は、秀吉亡き後、徳川の策謀により
豊臣が滅ぼされるまでの攻防を、虚実交えて語られる軍記物語です。
一山がくしゃみと闘いながら語るのはそのクライマックス、大阪夏の陣出陣の場。
まさに今、大河ドラマで描かれている場面。
こちらも佳境に入っていよいよ真田丸の登場です!
パパンパンパン!

一方物忘れの激しい男が八百屋の店先で語る『八百屋お七』は、江戸本郷駒込の
八百屋の娘お七が、恋人に会いたい一心で放火し、火刑に処されるお話です。
江戸の大火で避難した先のお寺で、寺小姓の吉佐と出会い恋仲になりますが、
避難生活も終わり家に帰ることになりますと、吉佐に会えなくなってしまいます。
そこでまた火事になって焼け出されれば、お寺で暮らすことができると思い、
家に火をつけるのです。

恋する乙女の浅はかな発想です。それにしても浅はかすぎるじゃないか〜
結局早期発見で大火には至らず、ぼやにとどまったのですが、厳しいですね。
火付けは大罪ですから、市中引き回しの上、磔獄門と決まっております。
火の罪は火で償うのですね。火炙りの刑にされてしまいます。(T_T)

この話、お七のお墓もあって実話とされていますが実証はないらしく、
でも魅力的な題材なので、井原西鶴が『好色五人女』に書いて広まり、
歌舞伎、浄瑠璃などなど脚色されて多数作品になっています。

からくり節は哀調を帯びた節回しでお伝馬町から刑場のある鈴が森まで、
馬に乗せられて引かれていくお七の姿が、途中の町の名を詩に織り込んで語られます。
こんな感じで、なんとも切なく響きます。

♪白い衿にて顔隠す、観る影姿が人形町、今日で命が尾張町、悲し悲しの泪橋・・・♪

のぞきからくりは、当時大人も子供も熱狂した大衆娯楽。
縁日の夜店やお寺や神社の境内でよく観られてたんでしょうね。
このお噺の男も子供の頃から何度となく観て、からくり節はすっかり暗記してしまっている。
“胡椒を横町の八百屋で二銭ガン”は全然覚えられへんのに〜。

それにしても講談あり、からくりあり、最後はよくわからん虫づくしの歌と盛りだくさん。
しかも講釈の場はくしゃみをしながらという難度の高さ!
噺家さんの技量のほどが試される大ネタなのです。

チュンチュン

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posted by 庭乃雀 at 16:58| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする